ノルウェーでのキノコ狩りの話

ノルウェーでの滞在制作中、私を含め約14人の作家が一緒に生活していた。朝9時から夕方の19時まで外で石を叩く日々。食事はそんな1日をリラックスして終える大事な時間だった。私たちは交代で料理を作った。毎日とても美味しい食事だった。ある時、ポーランド人の石彫作家のArekが大きなキノコを両手いっぱいに抱えて山から降りてきた。私たちが滞在していた場所は、山の上に位置していて少し脇道に入るとすぐに深い山の中だ。 はじめの頃、私は山に1人で入っていくのか怖かった。なぜなら当然そこには野生動物もいて、危険な動物はいないと聞いていたけど、何度かヘラジカを目にしていたし、鬱蒼としていたので1人で入っていくには少し抵抗があった。 そんな山からアレックは1人で降りてきた。そして両手にはたくさんのキノコがあった。それはシュタインピルツェ(Steinpilze)と言うキノコらしい。彼はそれをその日のお昼ご飯に振る舞ってくれた。
きのこはとても大きく、1つが大体手のひらのサイズがある。形は椎茸の笠にエリンギの柄のような感じ。それを縦輪切りにしてオリーブオイルで炒めてパスタと一緒に提供してくれた。僕はこれを食べてもいいものかと少し悩んだ。キノコは好きだけど、やはり素人が取ってきたっていうこともあり少し怖かった。正直にその話をすると、アレックは小さい頃からポーランドで親とキノコ集めをしていたらしく、その時にキノコの知識を習得したから大丈夫だと説明してくれた。他のみんなも何の躊躇もなく食べている。聞くと、みんなキノコ狩りの経験があり、小さい頃よく山に集めに行っていたと話してくれた。納得したわけではなかったが、信じることはできると思い。ひと口食べる。とてもおいしかった。クセがなくて上品な感じ。食感はしめじとエリンギの中間みたいで、ジューシーなのに、シャキシャキとしていた。スーパーでは高値で販売される高級食材らしい。その日を境に、アレック以外の作家も散歩がてらきのこを集めに行くようになった。どうやらノルウェーの気候はキノコが育つのに適しているらしく、また今年は雨が多かったため特にきのこがたくさん生えているとの事だった。興味が湧いてきたので、僕も一緒に行ってみることにした 山の中はうっそうとしていて、薄暗くて道が無いところも多くある。1人ではほんとに来たくないなと思ったけど、友達と一緒なら問題ない。私は人生で初めてのきのこ狩りをした。
実際にキノコ集めに行くと、本当にたくさんの種類のキノコが生えていた。目的のシュタインビルツェに似ている毒キノコもあった。見分けるポイントはキノコの房の裏の色味らしい。シュタインピルツェはブラウンっぽい色で、毒があるキノコは少し黒いような、紫に近いような色をしている。でも形や上から見た色なの色はほぼ同じなので間違いないかドキドキしていた。他にもプフェファリング(Pfifferling)と言うキノコもたくさん採取した。それは黄色いラッパのような小さめのキノコで、暗い山の中では割と見つけやすかった。僕たちはバケツいっぱいのキノコを取ることができた。そしてもう一度食べれるかどうかを友達とチェックしていく。チェックが終わると下処理だ。シュタインピルツェのヒダにはよく昆虫が潜んでいる。小さなミルワームみたいな虫だ。そのため調理する前にヒダを部分を取り除く必要があった。きのこの柄を取り、笠を裏返してそのヒダを除去していく。ナイフで剥がすようにすると簡単に取れる。もしそこにたくさんの昆虫が潜んでいたとしても硬い笠の部分まで至っている事はほとんどなかった。柄の部分が痛んでいる場合は皮を剥くようにその部分を取り除くことができた。
アレックはこれらのキノコの処理方法を丁寧に教えてくれた。他にもこのキノコはそのまま炒めてもおいしいが、輪切りにして乾燥させて調味料として使用してもとても美味しいという。例えばリゾットか何かに乾燥したシュタインピルツェをトリュフみたいに削って入れると、コクが深まると教えてくれた。